再試験合格! 卒業できます!!

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小説? 余命一日

人は何のために、己は何のために生きているのか。誰しもが一度は考えたことのあるテーマといえるだろう。その「なんのために」 に対して絶望したとき、人は自ら命を絶つという選択をすることもある。この話は、その選択をするにいたったある人間の話である。

Aは大学4年生の工学部の学生で、卒業間近の3月に2単位足りず、再試験を受けた。再試験を受けること自体は2月の初旬に既に分かっていた。再試験まで1ヶ月の猶予はあったのだ。難しい科目であるとは思っていたが、Aはそれだけあれば何とかなると高をくくっていた。勉強をしなかったわけではないが、勉強したつもりにはなっていたのかもしれない、理解していなかったのだ。実際、再試験前日にあわてる始末。こんな人間がどうして再試験を合格できるであろうか。合格のボーダーラインは60点、正直、運がよければ60点を超えるか否かという感触で、Aは半ば放心状態であった。その勢いで、所属する研究室のパソコンで、遺書まで書いてしまったほどだ。研究室の指導教授にどうだったか聞かれたが、正直、なんとも言えませんとしか、返すことが出来なかった。この再試験について指導教授は実力しかない、どうすることも出来ないと言われたため、不合格であったら、本当に、自殺をするしかないのではないか、この先、待ち受ける受難に耐えられないと感じていた。

そう感じるほど、昨今の就職状況は悪く、今年はAが就職活動を行った去年よりも悪いといわれている。A自身、既に2年次に1度留年していたため、他の学生よりも不利であったが、諦めずに頑張った甲斐もあり、50社以上受けてようやく内定にこぎつけたほどだった。

Aは2度目の留年による、内定取り消し、家族への負担、周りからの目、また就職活動をしなくてはならないこと、様々な要因から、これはAの精神状況からして自殺に値する大事であった。Aは常々、もしも誰の記憶からも自分が存在しなかったかのように消えてしまえるならばそれも良いかとは思っていたが、自ら命を絶つことは絶対無いと心に決めていた。しかし、そんなものはある日、突然変わってしまう。それほどの出来事だったのだ。

Aは再試験を終えた後、結果自体は一週間以上先であったが、覚悟を決めて、科目担当の教授の部屋を訪ねた。結果は明後日には分かるとのことだった。それからAと教授は1時間にわたり、様々な会話をした。教授は厳格という言葉の鏡であった。採点に関しては誰に対しても、公平に付けるということ。それは教授の研究室に所属する学部生であろうと同じであるということ。また、勉強に対する甘さを指摘された。

そういった会話をしながらAは、ついに今まで溜まりに溜まったツケが降りかかってきたのだと感じた。半生を振り返れば、Aは、大きな努力をしてこなかった人生であった。中学では平凡に勉強し、平凡な点数を取り、それに見合った高校を受験し、入学した。高校でも、同じように平凡に過ごし、大学受験は指定校推薦という学内の内申点で決まり、推薦されればほぼ100%受かる受験方法で大学を受験し、合格した。ここまではある意味、Aの人生は順調に進んでいたのかもしれない。ここで、一つの問題が生じた。大学受験の勉強を他の学生と比べてほとんど行ってこなかったのだ。そのため、Aは他の学生と比べて明らかに劣っていたが、今までそうであったように勉強に関しては高校までそうであったように、試験前にだけ勉強するといったようなスタンスを取った。まさか、Aも留年するなど思ってもいなかっただろう。しかし、結果として多くの単位を落とし、2年次留年することとなり、2年を2回やることとなった。それでも、大して勉強のスタンスは変わらず、たいてい、再履修となると、先生は採点を甘くしてくれるもので、何とか4年次までこぎつけ、先ほど述べた内定をもらうに至ったのだった。まさか、大学の最後の最後にこんな結末になるとは思いもせずに。

最後の最後に厳格な教授の科目を落としてしまったという事は、運が悪かったといえば運が悪かったのかもしれない。しかし、現実がそこにはある。Aはその現実を乗り越えられるのだろうかと考えたとき、絶望せずにはいられなかったのだ。

そして、Aは結果を知る運命の前日にこの文章を書いている私である。
試験日の夜の帰路では周りの人々がものすごく立派に見えた。皆、当たり前のように働いているのだ。それなのに私は、と考えると本当に情けない。どうしようもなく情けない。このままホームの線路に飛び降りたくも感じた。

再試験を受ける前まであった食欲が失せ、何を見ても読んでも素直に楽しめず、体は機能していても心が機能していない、そんな感じだ。死刑宣告を受けた囚人の気持ちというのはこれに近いのだろうか、そんなつまらないこともたくさん考えてしまう。しかし、時間は不思議と過ぎていく。

父親からは、お金のことは心配するな、もう1年留年しても大丈夫だからもし、不合格でもしっかりと頑張れと言われた。こんなにも愚かなバカ息子を勘当しないというのだ。私は、2年次に1度留年したときも同じ事を言われたのに、結局変われなかった。そんな私を。
両親の本心は分からない。今が自ら命を絶つべき時なのかも分からなくなった。私はこんなバカ人間なのに自尊心だけは人よりも高いと思う。生きれば、あと60年は生きられるであろう体を今、捨てるのか、決心できない。うぬぼれでなければ、周りの気持ちを考えると到底、命を絶つことなど出来るはずがない。

今は祈るしかない。

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