理想のモビルスーツ設計論


それでもモビルスーツを作りたい

「重量から見たガンダムの嘘」 で述べたように、モビルスーツ(MS)の設定数値は デタラメも良いところで、 本気で作るのはナンセンスと言われても不思議ではない。
それでも私は宇宙空間で縦横無尽に駆け巡るMSを作りたいのだ。 MSの有無よりも宇宙へ行ければそれで良いという人もいるだろう。 確かに宇宙に行くだけでものの見方や考え方が変わるとアストロノーツが 異口同音に言うのは真実だろうから、 スペースシャトルやソユーズで宇宙に上がるのは それだけで十分に価値のあることだろう。 しかし、スペースシャトルからの中継映像で アストロノーツのとろとろした動きを見ていると、 それで満足できるのかと思ってしまう。 1969年のアポロ計画からほとんど進歩していない。 このペースでは人の活動圏を宇宙に広げるなど、永久に絵空事に終わりそうだ。 高速で飛翔するデブリからパイロットを守るのは装甲厚を何百cmにしないと 無理なのでMS程度の装甲で保護されていようとなかろうが変わらないが、 宇宙線からパイロットを守り、 かつ地上と変わらない速度で作業が可能という意味でMSは役に立つと考える。

手足は不要か

不要に見えるMSの手足の存在を正当化する理論として AMBAC(Active Mass Balance Auto Control)としての有効性主張がよく使われる。 手足を動かした反作用で体の向きを変える方法だ。 宇宙遊泳中のアストロノーツが使う技術としては理論上は 問題ないのだが、実際は使われていない。 実際の宇宙服は手足の可動自由度が 低いため、AMBACで向きを変えるのは効率が悪いのだ。 それに対してMSは手足をアクチュエーターや モーターでぐるぐる回せるのでAMBACは実用的に使える。 宇宙では補充が難しいプロペラント(推進剤)を使わずに向きを変えられるのは 魅力的だ。
しかし、AMBACだけでは手足の存在は正当化するには弱い。 AMBACを使うだけなら、Zガンダム世代以降のMSに装備されている バインダーの方が効果的なのだ。特にギャプランのバインダーのように 本体と同程度の質量で何回転もできるタイプは理想的である。 AMBACを利用するなら人型にこだわらずAMBACが効率よく働くように 形状を設計した方が合理的だ。 その場合は、 回転させる部分の質量が大きく、かつダイナミックバランスが取りやすい 形状が良い。たとえば M.S. ERAに出てくるビグロのような作業機械的なマニピュレーターに 回転軸の反対側にカウンターウエイトを付けるのが良い。 やはり人型の手足の正当化は相当に厳しいと言わざるを得ない。

スーパーボール

それでは理想のMS/MAはどんな形状にすると良いか。 同一部材量(表面積)で搭載スペース(体積)最大の形状は球である。 外部と圧力差があるときに、最も圧力差に耐えやすい形状も球である。 AMBACを利用するときに姿勢制御が楽で、構造材の強度設計に 有利な形状は、本体重心と可動部重心が一致していて、かつ 本体の回転モーメントが小さい形状である。これは 本体が球で可動部がリング状か円盤状の形状だ。 すると、MS/MAの最適な形状はボールになる。 ただし、マニピュレーターは球の前からではなく中心から生やすのだ。 マニピュレーターの肘関節には前腕の重量とバランスするためのカウンター ウエイト(単なるおもりだと無駄なので、 モーターとかスラスターが良い)をつける。 宇宙開発だけなら武器は不要だが、 向かってくるデブリを打ち落とすため (自分が避けた方が合理的な気もするが、軌道を変えられない 宇宙ステーションを守るなんて状況はあるかも) キャノンを付けたいなら上下に対称に2門付けるか、 球の中心に1門付ける。 (本来のボールのキャノン位置なら撃ったらくるくる 回転を始めてしまい、AMBACで元に戻すには時間がかかりすぎる) あとは必要なだけ装甲を厚くすればMSより遥かに有効な 機体になる。 お遊びにこのスーパーボールの1年戦争向け設計例を何例か挙げてみよう。

要塞型ボール

コクピットを直径200cmの球として、その回りに厚みが400cm程度の 複合装甲を施すとすごいことになる。ガンダムのビームライフルだろうが、 戦艦の主砲だろうが、ビグザムのメガ粒子砲だろうが平気になる。 コロニーレーザーの直撃でも平気だろう。 複合装甲はチタン合金(4.5g/cm3)と そこそこ重い樹脂および空間で出来ているから、平均密度を3g/cm3 として計算すると、このスーパーボールのスペックは 直径10メートル、質量1500トンだ。
コクピットはパイロットを衝撃から守るため360度全方位に緩衝材と 緩衝機構(反復利用可能エアバッグ等)を装備する。 すると計器を取りつける場所がなくなるから、計器類は全てHMDとする。 つまり、ボトムズ乗りのようにヘルメットが計器パネルになるのだ。

対MSボール

要塞型ほどの防御力は必要はなくガンダムのビームライフルさえ 防げれば良いとすれば装甲厚は100cmまで減らせる。 100cmでもガンダムの10倍以上の重装甲だ。 スペックを計算すると直径4メートル、質量90トンとなる。 小さくて重いのに驚いただろうか。まともな機械というのは こういうオーダーなのである。 このタイプが最も汎用性があるだろう。 これならば学徒出陣のパイロットでも操縦できる。 撃破される可能性がゼロに近いので、 何回か出撃する内にみんなベテランパイロットになる。

高機動型ボール

対MSボールにゲルググクラス(=ガンダム以上)の機動性を与えるために 高出力スラスターを何基か増設したタイプだ。 スラスターに推進剤を供給するための着脱式プロペラントタンクが 針ねずみのように生えている。 本体部直径4メートル、プロペラントタンクを含めると全長10メートル、 質量150トンだ。主にエースパイロットに与えられるが、角なんてものはない。

低機動型ボール

対MSボールから正面装甲以外は廃止してしまったものだ。 これをやるとコストダウンになるが、 重心位置と回転中心がずれるのでAMBAC機動制御が難しくなる。 遠距離支援向けだ。 直径4メートル、質量50トンだ。

ここまではおそらく誰でもちょっと考えたら到達できる結論だと 思うが、究極のMS/MAがボールとはちょっと悲しい。 ボールが赤いザクのさらに数倍の機動性で飛び回れたとしても ワクワクしないし、製作モチベーションも湧かない。何とかならないものか。

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