ドーナツドーナッツ英語: doughnut, donut)は、小麦粉が主成分の生地砂糖バターなどを加えたものであり[1]、一般的には、油脂揚げる揚げ菓子の一種類である。内側はしっとりふんわりしたケーキのような食感のものや、モチモチした食感のものなどがあり、形状はリング状が多いが、ボール状や棒のような形のものなどもある[1]

典型的なリングドーナツ
ティムビッツ(ドーナツホールズ)
マラサダ
チュロス

日本では下に記した専門店や、スーパーマーケットコンビニエンスストアで販売されている。ホットケーキミックス、ドーナツ専用の「ドーナツミックス」などを用いると、家庭でも比較的簡単に作ることができる。日本では菓子の範疇であるが、アメリカ合衆国では朝食代わりにする人も多い。

サーターアンダーギーベルリーナー・プファンクーヘンなど、今日ドーナツの範疇に含まれる菓子の多くは祭日や祝い事と関連性が深く、油脂や砂糖が貴重品だった頃は庶民が日常的に口にできるものではなかった。調理に油脂を多く用いることから、キリスト教カトリック)圏では伝統的に四旬節の節制が始まる前に行われる謝肉祭ユダヤ教圏では聖油の祭日ハヌカーとの関連が深い。

なお、ドーナツといえば、リングドーナツが代表的であるため、ドーナツ化現象ドーナツ盤のようにリング状のものを指してドーナツ(形)と言うことがある。

歴史 編集

ドーナツの原型は、オランダ小麦粉砂糖で作った生地を酵母で発酵させ、ラードで揚げたボール状のオリーボーレンという菓子だとされており、オランダ人はこれを「オリークックOlykoek)」と呼んでいた。

後にイギリスで迫害を受けた清教徒1607年 - 1620年のオランダ滞在中にオリークックの作り方を覚え、ピルグリム・ファーザーズの植民と共にドーナツの原型がニューイングランドに伝わった。その後、オランダ移民によって再度ヨーロッパからアメリカに持ち込まれ、オランダ領ニューアムステルダムへも伝わったとされる。

リングドーナツの形に至った経緯は諸説あり、判然としないが、19世紀中頃あたりから見られるようになったという。

第一次世界大戦中、ヨーロッパでは救世軍アメリカ赤十字YMCAといった慈善団体が兵士の慰問業務活動の中で、ドーナツを無料配布したという。それが大戦後のドーナツの普及の一因となり、第二次世界大戦でも同様の貢献をしている。

アメリカのドーナッツ店は深夜営業の為、強盗の危険があった。そのため、アメリカのドーナッツチェーン店「ダンキンドーナツ」は、警官へのドーナツの無料提供または値引きをして、防犯対策に活用していた[2]

現在でも米軍では正式なレーションのメニューとして採用されている。

一方、韓国においてはクァベギというもち米粉入りねじりドーナツが親しまれており、2019年にランディーズ・ドーナツやOLD FERRY DONUTといった店が進出したことで、韓国におけるドーナツ市場に影響を及ぼしただけでなく、伝統的なクァベギの再評価にもつながった[3]。一方、Record Koreaによると、韓国のインターネットコミュニティにおいては健康への影響を懸念する声や見た目の偏重を指摘するもあったという[4]

日本における歴史 編集

1914年(大正3年)、上野公園で開催された東京大正博覧会でドーナツの実演販売が行われた[5]記録が残る。 日本軍においても1932年(昭和12年)刊行の軍隊調理法に加給品(間食)としてのドーナツの製法が記載されていた。一方、日本において、ドーナツは昭和後期まで中流家庭でよくつくられる菓子の一つであり、味付けも砂糖をかけただけ、もしくは何もかけない場合が多かった[6]1970年ミスタードーナツ[注釈 1]ダンキンドーナツが本格的にチェーン展開を始めた。以来、多様なドーナツが日本国民に提供されていった。なお、ダンキンドーナツは1998年に日本市場から撤退している。

2000年代にはアメリカのドーナツ大手の一つクリスピー・クリーム・ドーナツが日本に進出したほか、無添加を売りとした「フロレスタ」や、豆乳やおからを主原料とした「はらドーナツ」も登場し、このありかたは第一次ドーナツブームと呼ばれることもあった[注釈 2]

2014年11月には日本のコンビニチェーンの一つセブンイレブンが、コンビニコーヒーで成功した経験から相乗効果を狙って「セブンカフェドーナツ」を投入し、他社もそれに追随した[10]。コンビニの定番商品であるおでんは、日々の保守整備や具材の廃棄が加盟店の負担となっていたのに対し、ドーナツは什器の負担のみで済むほか、手間や光熱費もお伝ほどではなかったため、加盟店からも期待されていた[11]

これは日本における第二次ドーナツブームやドーナツ戦争と呼ばれることもあり[12]、クリスピー・クリーム・ドーナツをはじめとする第一次ドーナツブームの関係者に打撃を与えたといわれている[8]。とはいえ、コンビニが期待していたほどの成功は収められなかった[11][10]。その理由について経済評論家の加谷珪一は、コンビニが潜在市場規模を見誤ったことを挙げており、ドーナツ市場を独占していたミスタードーナツの業績が悪化したところに、コンビニが参戦してパイの奪い合いになってしまったことを指摘している[13]。このほかの失敗の要因としては「各社のドーナツの風味がミスタードーナツと似たり寄ったりになってしまった」(森山真二)[11]、「糖質制限ブーム」(吉岡秀子)[14]などが挙げられている。

2020年代の新型コロナウイルスの流行によって店内飲食よりもテイクアウトが好まれるようになったことは、ミスタードーナツやクリスピー・クリーム・ドーナツにとって追い風となった[6][15]。それに加え、「アイムドーナツ」や「ラシーヌ」といった第三世代と呼ばれる新興ドーナツも登場し、このありかたは第三次ドーナツブームと呼ばれた[16][17]。うちラシーヌは、コロナウイルスの流行初期の休業要請によって外食店で加工用の果物が大量に余ったことを知った運営会社のグリップセカンドがドーナツ用グレーズ (調理法)英語版の原料として買い取ったことでドーナツ事業を始めるきっかけになった[18]

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パンとドーナツ

揚げる際に熱の通りを良くするために円形の生地の真ん中を丸く抜いて輪(トーラス)にしたリングドーナツ、棒状に伸ばした生地をねじったツイストドーナツ、穴を開けない球形あるいは扁平球形のものや棒状のものなどがある。後述のとおりリングドーナツは代表的な形であるが、ドーナツの必須要件ではない。

リングドーナツの成形には、硬めの生地をドーナツ型でリング状に型抜きする方法、手で棒状に伸ばし両端をつなぐ方法、柔らかめの生地をドーナツメーカーを使ってリング状にして鍋の中に入れていく方法、ドーナツスプーンと呼ばれるリング状の器具で生地をすくって鍋の中に入れて熱した油に浸しながら揚げる方法などがある。リングドーナツの発明者はニューイングランドのハンソン・グレゴリーとされる。

揚げてから中にジャムやクリームを注入するジェリードーナツベルリーナー・プファンクーヘンクラップフェンなど)や揚げる前に餡を詰めたあんドーナツは穴を開けない。穴が開いてない棒状のロング・ジョンというドーナツもある。「ドーナツホールズ」(donut holes)と呼ばれる小型の球形ドーナツは、ミスタードーナツでは「D-ポップ」、ダンキンドーナツでは「マンチキンズ」、ティムホートンズでは「ティムビッツ」と呼ばれている。リングドーナツのくりぬいた真ん中の生地を揚げたものといわれることがあるが、市販のリングドーナツはほとんどの場合、生地を特殊なノズルで直接リング状に生成するため生地の穴抜きをすることはない。

種類 編集

種類は大きく

に分けられる。

揚げてからアイシングや溶かしたチョコレートをかけたり、粉砂糖やグラニュー糖をまぶすことも多い。

アメリカ合衆国のR&B歌手ルーサー・ヴァンドロスは糖衣をかけたドーナツを2つに切ってバンズの代わりに用いたベーコンチーズバーガー、「ルーサー・バーガー」を考案したとされる。

ドーナツ・ブームの昨今では、油で揚げない焼きドーナツ、茹でドーナツ、半生ドーナツ、豆腐ドーナツといったものも、健康志向や食感の面白さから消費者に受け入れられるようになってきている。

ドーナツに類似した食品 編集

ドーナツショップ 編集

脚注 編集

註釈 編集

  1. ^ ただし、ミスタードーナツが1号店である箕面ショップを開いたのは1971年4月2日とされている[7]
  2. ^ 第一次・第二次の区分けについてはメディアによって分かれており、ライターの長浜淳之介[8]およびノンフィクション作家の阿古真理[6]はクリスピー・クリーム・ドーナツの進出を第一次ドーナツブームとみなし、コンビニドーナツの登場を第二次ドーナツブームとしている。一方、トータルフード代表取締役の小倉朋子は2022年に日本食糧新聞電子版に寄せた記事の中で、1970年代のミスタードーナツとダンキンドーナツの参入を第一次ドーナツブームとみなし、クリスピー・クリーム・ドーナツらの参入を第二次ドーナツブームとしている[9]

出典 編集

  1. ^ a b 本郷和人 (2015年12月20日). “書評 『お菓子の図書館 ドーナツの歴史物語』 ヘザー・デランシー・ハンウィック〈著〉”. 朝日新聞 (朝日新聞社): p. 朝刊 15 
  2. ^ アメリカ警察特集コラム第9回 『警官とドーナツ』”. PoliceManiacs.com. 2023年5月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月3日閲覧。
  3. ^ Ose, Rumiko (2024年2月3日). “韓国・ソウルで起きる進化系ドーナツの“ビッグバン” | ブルータス”. BRUTUS.jp. 2024年2月3日閲覧。
  4. ^ China, Record. “韓国の若者、マカロンの次はドーナツに夢中?=「SNS用」「ドーナツより今は…」”. Record China. 2024年2月3日閲覧。
  5. ^ 下川耿史『環境史年表 明治・大正編(1868-1926)』p.392 河出書房新社 2003年11月30日刊 全国書誌番号:20522067
  6. ^ a b c 阿古真理 (2022年7月29日). “クックパッドニュース:3度目の「ドーナツ」ブームが到来!とろける口当たりの“生ドーナツ”店に行列ができる理由”. 毎日新聞. 2024年2月3日閲覧。
  7. ^ ミスタードーナツ、聖地なぜ箕面 「普通の街」に地盤”. 日本経済新聞 (2022年10月13日). 2024年2月3日閲覧。
  8. ^ a b 長浜淳之介 (2022年12月21日). “低迷していた「ミスド」なぜ復活? 背景に、第三次ドーナツブームと行列のできる人気店 (3ページ目)”. ITmedia ビジネスオンライン. 2024年2月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月3日閲覧。
  9. ^ 小倉朋子 (2022年11月29日). “ドーナツとカヌレの人気再燃 長く愛されるスイーツの共通点に「軽さのバランス」”. 日本食糧新聞電子版. 2024年2月3日閲覧。
  10. ^ a b 加谷 珪一 (2016年8月24日). "コンビニがコーヒーで成功して、ドーナツで失敗したシンプルな理由(2ページ目)". 現代ビジネス. 2024年2月3日閲覧
  11. ^ a b c コンビニ・レジ横の「ドーナツ」なぜ消えた?救世主扱い→期待外れの末路たどったワケ”. ダイヤモンド・オンライン (2024年1月2日). 2024年2月3日閲覧。
  12. ^ 長浜淳之介 (2022年12月21日). “低迷していた「ミスド」なぜ復活? 背景に、第三次ドーナツブームと行列のできる人気店(2ページ目)”. ITmedia ビジネスオンライン. 2024年2月3日閲覧。
  13. ^ 加谷 珪一 (2016年8月24日). "コンビニがコーヒーで成功して、ドーナツで失敗したシンプルな理由(3ページ目)". 現代ビジネス. 2024年2月3日閲覧
  14. ^ ドーナツの黒歴史、なぜか売れたサラダチキン コンビニ商品の舞台裏”. 朝日新聞デジタル (2023年12月11日). 2024年2月3日閲覧。
  15. ^ 長浜淳之介 (2022年12月21日). “低迷していた「ミスド」なぜ復活? 背景に、第三次ドーナツブームと行列のできる人気店”. ITmedia ビジネスオンライン. 2024年2月3日閲覧。
  16. ^ 長浜淳之介 (2022年12月21日). “低迷していた「ミスド」なぜ復活? 背景に、第三次ドーナツブームと行列のできる人気店”. ITmedia ビジネスオンライン. 2024年2月3日閲覧。
  17. ^ 第3次ドーナツブーム到来!韓国発、生食感、グルテンフリーまで、「食べ歩きが忙しい」“探求家”が分析するブームの背景と要因”. 週刊女性PRIME (2024年1月11日). 2024年2月3日閲覧。
  18. ^ クックパッドニュース:3度目の「ドーナツ」ブームが到来!とろける口当たりの“生ドーナツ”店に行列ができる理由”. 毎日新聞. 2024年2月3日閲覧。

関連項目 編集