アングル:日銀、米国発株安を静観 金融市場の「フロス」に警戒解けず

アングル:日銀、米国発株安を静観 金融市場の「フロス」に警戒解けず
 米国株安に端を発して日本株が13日にかけて下落を続ける中で、日銀は上場投資信託(ETF)の買い入れを見送った。写真は都内の日銀で2015年5月撮影(2021年 ロイター/Toru Hanai)
和田崇彦
[東京 14日 ロイター] - 米国株安に端を発して日本株が13日にかけて下落を続ける中で、日銀は上場投資信託(ETF)の買い入れを見送った。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う金融市場の動揺で、積極的にETF買いを実施した昨年とは対照的だ。市場では、過熱感の鎮静に向かっているとして、現在の株価調整を日銀が食い止める理由はない、との見方が出ている。
もともと、金融当局者の間では、主要中銀の金融緩和を受けて金融市場にフロス(小さな泡)が相次いで発生していることに警戒感が高まっていた。連鎖的に生じて何かのきっかけで一気に破裂すると金融システムの動揺につながりかねないためだ。
<株安、フロスが「適正化」との声>
日銀のETF買いを巡り、市場参加者が疑心暗鬼に陥っている。日経平均株価が13日まで3日続落し、下げ幅は2000円を超えたにもかかわらず、日銀がETF買い入れを見送ったからだ。
日銀は3月の政策点検でETFの買い入れ手法を見直した。コロナ対応の一環で引き上げた年間買い入れ上限12兆円を恒久化し、「市場が大きく変動した場合に大規模に買い入れを行う」(黒田東彦総裁)方針を打ち出した。
しかし、4月からTOPIX連動型に買い入れ対象を一本化して以降、買い入れ実施は1営業日のみ。13日の参院財政金融委員会で黒田総裁は、ETF買い入れは「数日間で株価がどれだけ下がったなど、機械的なルールで行っているわけではない」と言明。運用難にあえぐ地銀などからは不満の声が上がる。
政策点検に当たり、日銀内部では昨年3―4月の買い方が理想的だとの声が上がった。コロナの感染拡大で景気腰折れ懸念が急速に高まり、株価が急ピッチで下落した局面で、日銀は3月に1兆5000億円、4月に1兆2000億円を買い入れた。5月以降、買い入れ額は急減するが、一連の経緯は日銀の「市場が大きく変動した場合に大規模に買い入れる」という新たな指針に通じる。
当時と比べれば、現在の株価のボラティリティは低く、株価は点検実施を発表した昨年12月の水準を上回っている。大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、現在の株価調整を「フロスが適正な水準に戻る過程」と指摘。ETFを大幅に買い入れて株安を止めなければいけない水準とは違うのではないかと話している。
<相次ぐフロス>
米ゲームストップ株の急騰劇、英金融サービス会社・グリーンシルの破綻、アルケゴス問題ーー。
日本の金融当局者が今回の株価調整を冷静にみているのは、金融緩和によってもたらされた「フロス」を警戒しているからだ。
日銀の見解を探るうえで手掛かりになる材料がある。4月に公表した金融システムリポートだ。昨年3月の金融市場の混乱の一因となったノンバンク部門の日本の金融機関への影響を分析している。
主要な中央銀行が金融緩和を推進したことで、先進国の国債利回りがつぶれてしまい、日本の金融機関と海外の投資ファンドの投資先が重複する傾向が強まっていると指摘。市場環境急変時に海外の投資ファンドが急速にポジションを巻き戻すことで、日本の金融機関は動かずとも保有ポジションに打撃を受けるリスクがあると警鐘を鳴らした。
米連邦準備理事会(FRB)が6日に発表した金融システムに関する報告書でも、コロナ禍からの景気回復に伴い投資意欲が高まる中、株式ブームやオンライン取引による個人投資家の台頭、ヘッジファンドの資金調達を巡る不透明性などを背景にリスクが増大しているという認識を示した。
<金融庁も警戒、非日系向け大口与信を調査> 昨年、コロナの感染拡大で金融市場が大きく揺れ動いた際、日銀は円やドルの積極供給、ETFの積極的な買い入れ、民間部門の資金繰り支援の3本柱を打ち出し、金融システムの安定と国内景気の底割れ回避につなげた。
金融庁では、昨年に金融システム不安が回避できたのは、財政・金融の出動で景気が持ち直し基調をたどったことが大きいとの指摘が出ている。 しかし、コロナ禍で金融緩和の長期化が見込まれる中、金融緩和の結果、浮上してきた金融市場でのリスクに金融庁も日銀も警戒感を強めている。
関係筋によると、金融庁はアルケゴス問題の発覚前、メガバンクを対象に非日系向け大口与信のリスク管理体制を調査した。リスク管理高度化のため情報収集体制を強化したり、過去の債務データに基づいたアラーム分析機能を導入した銀行がある一方で、現地から思わしくない情報を入手しても機動的に対応できていない事例もあったという。
金融庁では、金融機関が海外に持つ事業ポートフォリオについて、リスクを適切に把握し、管理を徹底すべきだとの声が出ている。
日銀では、コロナの長期化に伴って企業の借り入れ返済が困難になり、金融機関の与信費用が増加するリスクよりも、金融市場の急変に伴うポートフォリオの毀損(きそん)リスクの方をより警戒すべきだとの声が出ている。

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