コラム:ビジョン・ファンドの高リターン支える評価益の危うさ

コラム:ビジョン・ファンドの高リターン支える評価益の危うさ
 5月12日、ソフトバンクグループ(SBG)の「ビジョン・ファンド」は絶好調だ。2017年7月、東京都で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)
Liam Proud
[ロンドン 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ソフトバンクグループ(SBG)の「ビジョン・ファンド」は絶好調だ。1000億ドル近い規模を誇り、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)が支援する同ファンドが発足した2017年から今年3月末までに、外部の投資家が享受した内部収益率(IRR)は30%に達した、とSBGが12日発表した。
収益率がマイナスだった1年前からの大逆転だが、保有ハイテク企業の評価益の大きさとビジョン・ファンドの構造上の問題が、その足場を弱くしている。
この素晴らしいIRRには、それなりに確固とした裏付けがある。ビジョン・ファンドは一定の投資で実現益を確保し、投資家に対して出資分の一部を還元した。だが、IRRで最も大きな比重を占めるのは、この1年で上場したばかりの韓国ネット通販大手・クーパンや米料理宅配サービスのドアダッシュといった「大当たり銘柄」の評価益だ。3月末時点のポートフォリオ価値1207億ドルのビジョン・ファンドにおいて、評価益458億ドルの実に72%がこの2社に由来する。
こうした構図のため、SBGの孫正義会長兼社長が示したビジョン・ファンドのリターンは、株式市場の乱高下に影響されやすい。クーパンの株価は3月末以降に約25%下落した。ビジョン・ファンドのポートフォリオ全体に同じ下落率を当てはめると、価値は約900億ドルに減少し、2020年末の水準とほぼ変わらなくなる。そうしたシナリオでは、IRRはかろうじて10%を上回る水準にしかならない。
BreakingviewsはSBGの財務諸表に基づき、ビジョン・ファンドの基本構造を反映するような計算式でこうした値を算出した。基本構造には、「優先株」を持つ外部投資家に毎年元本の7%を固定配当する仕組みや、SBGの管理手数料と成功報酬の支払いが含まれる。
この優先株が見かけ上のビジョン・ファンドの投資リターンを膨らませるとともに、より不安定化させてしまう。20年3月の株価急落でリターンがマイナスになったのもこれが一因だった。
今のところドアダッシュの株価は、クーパンが最近数週間で記録したほどの落ち込みとは程遠い。しかもビジョン・ファンドは、上場を待つ未公開企業に合計667億ドルを出資している。このうちのほんの一部でも、孫氏が過去に成功した銘柄と同じぐらい上昇すれば、ビジョン・ファンドの目を見張るようなIRRは安泰なはずだ。
それでもビジョン・ファンドは、「泡立っている」と表現される割高化したハイテク株への投資比率が際立って大きい。ナスダック100指数は過去2年で約80%上昇しており、大幅な反落が起きれば、ビジョン・ファンドの評価益は煙のように消えてなくなるだろう。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループ(SBG)が12日発表した2021年3月期の利益は約5兆円(460億ドル)で、そのうち約4兆円は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」などを通じた投資事業がもたらした。投資先のハイテク企業の評価額が前年から大きく上がったことが背景。
*韓国ネット通販大手クーパン、米配車大手ウーバー・テクノロジーズ、米宅配サービスのドアダッシュなどに出資しているビジョン・ファンドの価値は1207億ドル、投資額は749億ドルだった。この評価益458億ドルには、過去の保有に基づく実現益の約72億ドルは含まれない。
*孫正義会長兼社長は、ビジョン・ファンドの外部投資家にとって、資産管理手数料と成功報酬、ファンド運営費用を除くベースで内部収益率が30%に達していると述べた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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