Britannica Japan
2005年版『ブリタニカ国際年鑑』「ノーベル賞受賞者」
平和賞 ワンガリ・マータイ
ロバート・ラウチ(フリーランスライター)

アフリカ人女性として初めて、ワンガリ・マータイはノーベル平和賞を受賞した。その活動分野は環境問題から人権問題まで広範囲にわたっている。科学的な教養に裏打ちされたマータイの発言は世界中で共感を呼んでおり、その人柄は2005年の訪日に際して各地で歓迎された。


 平和賞
 2004年のノーベル平和賞は、ケニアの環境保護活動家で女性の権利擁護にも尽力したワンガリ・マータイに贈られた。アフリカ人女性のノーベル平和賞受賞は、これが初めて。マータイはケニアをはじめアフリカ全土に3000万本以上の木を植林した「グリーンベルト運動」の創設者、リーダーとして特に知られている。その活動は環境分野だけでなく、経済と政治の分野にも及んでいる。ノルウェーのノーベル賞委員会は平和賞の発表にあたって「マータイは持続可能な開発に向けて包括的な方法で取り組み、民主主義、人権、特に女性の権利の発展に貢献した」と表明した。また委員会は、「今回の授賞に伴い、『平和』の定義に環境問題も含めることとした。……地球の平和は私たちが環境を守れるかどうかにかかっている」とも述べ、平和賞の対象を広げる姿勢を示した。
 ワンガリ・ムタ・マータイは、1940年4月1日ケニアのニエリで生まれた。1964年にアメリカ・カンザス州アチソンのマウント・セント・スコラスティカ大学(現ベネディクティン大学)で生物科学の学士号を、1966年にペンシルバニア州ピッツバーグ大学で生物学の修士号を取得。ケニアに帰国後さらにナイロビ大学で学び、1971年に獣医学の博士号を取得、東アフリカで博士号を取得した初の女性となる。1976年には同大学獣医学解剖学部長に就任、同じ年、ケニア全国女性評議会のメンバーとなり、1981年から1987年まで議長を務めた。1977年、土地の保全と女性の地位向上という2つの目的を掲げて「グリーンベルト運動」を創設、貧しい女性を動員して森林が破壊された地域に植樹する事業をスタートさせた。その後この運動は、市民教育や環境教育、権利擁護運動(アドボカシー)やネットワーキングのほか、他のアフリカ諸国における職業訓練、女性の生活技術の向上などさまざまな事業を含む包括的なものに発展していった。また、異文化間の理解と環境保護を推進する活動やプロジェクトへの参加を促進するために、「サファリ」と呼ばれる各国間の相互訪問事業も実施した。
 マータイは政治腐敗や、官僚とその縁故者が公有地を自己利益のために私有化する土地略奪政策などを声高に批判したため、1970年代から1980年代にかけてダニエル・アラップ・モイ一党独裁政権としばしば衝突した。何度か暴力沙汰の攻撃を受け、一時は投獄された経験もある。また、アフリカの貧困国の債務帳消しを主張したことでも知られている。1992年に複数政党選挙が導入され、2002年ついに独立以来初の政権交代が実現したが、この年の選挙で国会議員に当選、その後環境・天然資源・野生動物省副大臣に任命された。著書に『グリーンベルト運動――方法と体験の共有のために』(1988年)がある。(幾島幸子訳)




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