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【オピニオン】八百長相撲の根絶には報酬制度の改革を

マーク・シリング


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 このところの八百長問題は、相撲2000年の歴史で最大の危機だ。日本の国技で新たに生じた現象だからではない。過去にも同じような疑惑が浮上したことはあり、相撲が持つこの暗い側面について知るファンは多い。ただ、今回は動かぬ証拠があるため、日本人は問題の深刻さと現実を突きつけられている。

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元横綱朝青龍関

 八百長は、昨年夏の野球賭博問題の捜査過程で発覚した。警察が力士の携帯電話から削除されたメールを復元したところ、支払われる金額や使う取り口といった八百長計画の詳細が見つかった。これまでに14人が関与を疑われ、うち3人が認めている。

 2日にマスコミが取り上げてから、日本相撲協会は春場所の開催中止を決めた。同協会の放駒理事長は記者団に対し、「長い相撲の歴史で最大の汚点」であり「おわびのしようもない」と述べた。その上で、協会として広範な調査を開始すると言明した。開催中止が増える結果になっても、必要な時間をかけて八百長を完全に撲滅するという。

 力士が特に八百長の誘惑にかられるのは、黒星が増え、場所を負け越しそうなときだ。負け越せば降格というときはなおさらである。力士の階級は大きく6段階に分かれるが、本当にプロの地位と報酬を享受しているのは上2段階(幕内と十両)だけだ。

 幕内と十両は、それぞれの場所で8勝し、階級を維持することに専念する。千秋楽が近づくと、負けが多い一部力士は、既に「安全」地帯に入っており星を売ってくれそうな対戦相手はいないかと考え始める。

 一つ考えられる解決策は、月給と比較的少額の報奨金という現行制度をやめ、ボクシングのように勝ったときに手にする金額と負けたときの差を大きくすることだ。賞金が場所の初めより最後に高くなるよう調整してもいい。現行制度では、翌場所の階級が確定している力士が大したダメージも受けずに取組相手を「手助け」できる。3秒とかからずに負けて簡単に小遣いを稼げるのだ。今後の取り組みで白星を返してもらってもいい。

 ということは、相撲はショーなのか。甘いかもしれないが、わたしは今でも違うと信じている。地方巡業の取り組みには何もかかっておらず、誰もけがをしたくないため、動きが演出されているように見える。これに対し本場所では、取り組みは明らかに激しく、力士がけがをすることも多い。大けがもある。八百長が常に行われていたら、休場ないし引退を余儀なくされるようなけがをほぼすべての力士が経験することはないはずだ。

 最後に、日本相撲協会が興業を指揮しているなら、現在優勢な外国人軍団よりも日本人力士の勝ちが多くなるはずだ。ファンは間違いなくそう願っている。しかし、日本人力士が前回優勝杯を手にしたのは2006年1月だ。 

 何より、ファンはクリーンな相撲を望んでいる。菅直人首相が八百長疑惑について、あったとすれば「国民に対する背信行為」だと言ったほどだ。これまでの改革の失敗をみると、現在の対処についても先行き明るいとは言えないが、相撲の存続はここにかかっている。報酬制度を変えない限り、八百長はじわじわと復活するだろう。ちょうどこれまでと同じように。

(マーク・シリング氏は東京を拠点とするフリーランスライターで”Sumo: A Fan’s Guide”の著者。1980~2000年に初の英字相撲雑誌「スモウ・ワールド」のライター、91年以来NHKの二カ国語相撲放送のコメンテーターを務める)

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