経世彩民 大月規義の目
「飲んでもいいの?」。9月26日、東京電力福島第一原発を訪れた菅義偉首相は、原発の汚染水を浄化処理した水を見て、東京電力の関係者にそう聞いた。「希釈すれば飲める」という東電の説明を受けての発言だった。菅首相は飲まなかったという。
仮に飲んだとしても、汚染水に対して「安全だ」とか、「だから海に流しても大丈夫」という見方が世間に広まることはなかっただろう。
文字が同じ「菅首相」でも、旧民主党で首相を務めた菅直人氏は、かつて厚生相(現厚生労働相)だった時に疑惑のカイワレダイコンを自ら食べてみせた。1996年のことだ。
発端は、堺市で起きた病原性大腸菌O157による集団食中毒事件だった。厚生省は「カイワレダイコン原因説」が事実かどうかあやふやなのに公表した。カイワレの販売中止が全国に広がった。菅氏の試食は、カイワレの疑いを晴らすためだった。
カイワレは冤罪(えんざい)だった。カイワレ生産業者らが厚生省を相手に起こした損害賠償請求訴訟では、最終的に国側が敗訴している。
一方、第一原発の汚染水は処理すれば無害なのかもしれないが、管理のあり方には「前科」がある。
第一原発の水は、もともと地下水や雨水だ。建屋に入ると、溶け落ちた核燃料(デブリ)などに触れ、核分裂を起こした後にできる様々な放射性物質を取り込む。東電は毎日、放射性物質を特殊な浄化装置を使って漉(こ)し取っている。
ただし、三重水素(トリチウ…
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