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政府主導により進められている働き方改革や新型コロナウイルスの影響などにより、オフィス以外の場所で働くテレワークは、新しい働き方としてすっかり一般的なものになりました。こうした事情を踏まえ、従来の印鑑に代わる電子署名が大きな注目を集めています。この記事では、電子署名を業務に取り入れる際に知っておきたい法律についてまとめました。

そもそも、電子署名は法的に有効か

テレワークとの相性の良さや業務プロセスの簡略化につながる点など、ビジネスにさまざまなメリットをもたらしてくれる電子署名。便利なのはわかっていても、実際に導入するとなると法的な有効性が担保されているのかが気になります。もし仮に、重要な契約書に付与された電子署名に法的有効性がなければ、裁判などの争いになった場合に不利な立場にたたされるかもしれません。

電子署名の運用について定めた電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)の第三条には、以下のように記載されています。

“第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。”

【出典】電子署名法第3条 より引用

つまり、電子データであっても本人による電子署名がおこなわれた文書であれば、従来の紙文書と同様に効力を発揮すると解釈できるでしょう。重要なのはこの電子署名ですが、同法律の第二条第一項で以下のように条件が示されています。

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。 二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

【出典】電子署名法第二条 より引用

つまり電子署名とは「署名を行った本人によるものであることを示す」「電子文書の内容が改変されていないことを確認できる」の2点を保証するもので、実際にはそれぞれ「電子証明書」「タイムスタンプ」を署名に付与することで確認できるようになっています。
こうした理由から、電子署名を付与された文書は、印鑑における捺印や割印(または契印)と同じ役割を果たすことができ、従来の紙文書と同様に法的効力を持つものとして、ビジネスでも問題なく利用可能です。

電子署名による契約書は印紙税が不課税になる

電子署名により完結された契約書には収入印紙が不要になります。印紙税法の第3条には、以下のように定められています。

第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。

【出典】印紙税法第3条 より引用

ポイントとなるのは、印紙税は「課税文書」を作成した際に発生するという点です。この「作成」とは「紙の書面に書いて交付する」という行為を指しており、電子署名の付与された電子契約書は、たとえ相手に送信しても「作成」という行為にはあたりません。そのため課税原因は発生せず、不課税という扱いになっているのです。また、電子文書の契約書をプリントアウトしたものはコピーした文書と同様の扱いになるため、この場合も課税文書としては取り扱われません。
こうした点から、電子署名の付与された電子契約書は印紙税が発生しないので、経費の節約になるというメリットがうまれます。

電子署名に関する3つの法律

電子署名に関連するものとしては、以下の3つの法律が制定されています。業務で電子署名を扱う場合は、それぞれがどのような法律なのか大まかにでも理解しておくことが重要です。

電子帳簿保存法

正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、国税関連の帳簿(総勘定元帳や仕訳帳など)や決算関係書類(棚卸表や貸借対照表など)を紙の書類ではなく電子データで保存することを認めた法律です。1998年7月の施行後、2005年3月には一部が改正され、紙の書類をスキャンして電子化したものも保存が認められることになりました。

電子署名法

正式名称を「電子署名及び認証業務に関する法律」といい、電子署名が署名や印鑑の捺印と同じように法的効力を持つことを定めた法律です。2001年4月に施行されましたが、日本独自のハンコ文化の影響により電子署名はなかなか浸透せず、新型コロナウイルスや働き方改革の影響でリモートワークが定着した最近になって、大きく注目されるようになりました。

e-文書法

「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の総称で、法人税法や商法により保管義務がある書類の電子データ保存を認めた法律です。具体的には領収書や請求書、預金通帳、建築図面、診察記録などが対象になっています。主に国税に対する書類を対象とする電子帳簿保存法に対して、より幅広い書類の電子保存を認めている法律です。

端末上に名前を書くだけでも「署名」になる?

最近は支払いの決済や保険契約の申込など、タブレット端末にサインするケースも増えてきました。一見するとこれは電子データ上に署名をしているように考えられますが、実際にはどこまで法的効力が認められるのでしょうか。
結論からいうと、こうした署名には「電子証明書」や「タイムスタンプ」が付与されていないため、電子署名法上の「署名」にはあたりません。印影や署名(サイン)を電子データとして形だけ取り込んでも、条件を満たしていないものは「電子署名」としてみなされないのです。 ただ一方で、民事訴訟法第228条第4項には以下のような記載もあります。

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

【出典】民事訴訟法第228条第4項より引用

この条文の中では、署名の形態に厳密な定義はありません。紙の上に書かれたものでも、電子機器のスクリーン上に書かれたものでも、本人の意思を示す「署名」に該当すると解釈することができます。
そのため、現状では簡易的な意思確認の方法としては、端末スクリーン上に名前を書いたものでも署名として扱うケースが多いようです。ただ、繰り返しになりますが電子署名法上の「電子署名」としての要件は満たしていないため、万一裁判などの争いになった場合は、証拠として認められない可能性があることを念頭に置く必要があります。

自社に適したサービスを選ぶ

導入に際しては環境の整備も必要になってきます。その中でも核をなす電子署名のシステムですが、最近では多様なクラウドベースのサービスが登場し選択肢の幅が広がってきています。導入コストにあわせ自社の利用目的にあったサービスが選択できることで、電子署名導入のハードルも一段と下がってきました。
参考:電子契約に関する製品

ビジネスに数々のメリットをもたらす電子署名

これまで日本のビジネス習慣においては、重要な文書は紙で保存するという意識が強かったため、電子署名や電子文書の導入をためらう人も多いかもしれません。しかし、捺印や署名のある紙文書と同等の法的効力を持ち、さらに印紙税の節約や業務効率化などのメリットを持つ電子署名は、今後ますます浸透していくと考えられています。


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